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リスの鳴き声と脳の機能

☆「アムーにこの危険なまでの激しさをあたえたのは何だったのか?
  この何をしでかすかわからない行動を?
  それは彼女が心の中で戦っていたものだった。
  本来まじり合うことのないはずのものが同居していた。
  母親としての無限のやさしさと、自爆者のむこうみずな怒りとが。」
 (アルンダティ・ロイ著、工藤惺文訳『小さきものたちの神』DHC、1998)

・うちのそばには野生化した台湾リスがたくさんいます。
 朝起きると、窓から、ベランダや電線をリスがちょろちょろしているのが見えることもあります。
 この台湾リスは、状況に応じて、異なる種類の鳴き方をします。
 一番よく聞くのは、「シャカシャカシャカシャカ」といった、やや無機質っぽい鳴き声です。
 あと、恐らく仲間に縄張りを知らせようとけん制している時だと思うのですが、
 お相撲の行司さんが拍子木を大きく打つような音で「ケーン、ケーン」と鳴くこともあります。
 また、うちの猫に追いかけられて逃げる時は、「チーチーチー」と鳴きます。
 更に、うちの猫に追い詰められて逃げ場がなくなった時は、
 「バゥワゥ、バゥワゥ」と、低くて太くて大きな声で叫びます。
 まるで大きな犬の唸り声のようで、最初に聞いた時は、すごくびっくりしました。

 このような、台湾リスの「追い詰められたネズミが猫を噛む」ような反応は
 動物行動学者のヘーディガーによると、“臨界反応”というそうです。
 同じく動物行動学者のローレンツによると、この臨界反応は、闘争行動のうち最も激しいもので、
 恐怖が動機となって引き起こされるものだそうです。
 つまり、激しい攻撃は激しい恐怖に由来するのだそうです。

 だとすると、もしかしたら、境界性人格障害に見られる激しい怒りや衝動性・攻撃性は、
 見捨てられ不安という強い恐怖に由来するのかなぁ、と思いました。
 不安の増大が強い攻撃性を引き起こすのだとしたら、
 人間以外の動物から、不安の増大を攻撃性以外のベクトルに変換する方法を、学べないかなぁ。

・ところで、鈴木映二氏の著書『セロトニンと神経細胞・脳・薬物』(星和書店、2008(第5刷))によると、
 大脳は大脳皮質と大脳辺縁系と大脳基底核とに大別されるそうです。
 そのうち、大脳辺縁系には扁桃体や海馬などの部位が含まれます。
 扁桃体は情動のベクトルづけをしたり物事の好き嫌いを判断する部位で、
 海馬は短期記憶や不安に関連している部位だそうです。
 海馬と扁桃体は相互連絡も行い、
 扁桃体から発せられた情動に関する強い刺激が海馬に入力され、また、
 海馬は過去の記憶を認知と結びつけて情報処理して扁桃体に送り、
 扁桃体では海馬から送られた情報に関し、意味付けや状況判断を行っていると考えられているそうです。
 これらを読むと、境界性人格障害は、扁桃体・海馬に何らかの機能障害があるように思えるのです。

 高校レベルの生物では、大脳(新)皮質は高次の精神機能を営む人間的な脳であり、
 一方、扁桃体や海馬を含む大脳辺縁系は、情動・本能に関連する動物的な脳ということになっています。
 ということは、境界性人格障害という機能障害は、
 生物が生物として生きていくための情動・本能に関連した適応又は不適応であり、
 それが人間社会で歪んだ形で表れているとも考えられないのかなぁ、と思うのです。

・境界性人格障害の特徴として、子供的・幼児的であるといったことが書かれることが多いです。
 確かにその通りだと思います。
 しかし、子供的・幼児的というよりも、
 動物的・本能的な側面が強いといった方がしっくりくる場合もあるように思うのです。

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