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母国語以外の言語の効用1

☆「レイモンド・チャンドラーのハードボイルド・スリラーの「ビッグ・スリープ」Big Sleep が
 出版されたときに(中略)、ビッグ・スリープの意味は「死」なんだろうと考えながら、
 それにしてもハードボイルド的な感じがするなあと、とても感心したのを思い出した」

 「その音の感じは、どこか知らない国を空想させ、
 その国の河が静かに流れているのが太陽で光っているのが目に見えるようなのである。
 あとでノリス・ジョーンズにそんな印象を語りながら褒めると、そばにいた年うえの黒人仲間が、
 ぼくに向かって「ユー・ハブ・ビッグ・イヤー」You have big ear といったのだ。
 このビッグ・イヤーの使い方も面白い。」
 (植草甚一『ぼくの読書法』晶文社、1979(第7刷))

・ちょっと古い話題となりますが、
 今年の芥川賞受賞者は、中国出身の楊逸(ヤン・イー)さんでした。
 日本語以外の言語を母国語とする作家として史上初めての受賞となったそうです。
 とってもとってもおめでとうございます(まだ『ワンちゃん』しか読んでないけれど)。

 同じく中国の女性の作家で、第1回フランク・オコナー国際短編賞をはじめとして
 数々の賞を受賞している李翊雲(イーユン・リー)さんもまた、
 母国語以外の言語(彼女の場合は英語)で小説を書いています。

 楊さん23歳で来日し、日本語が全くわからない状態から勉強していったそうです。
 李さんは24歳で渡米し、学校で文法を習ったことがあるのみで、話すことも聞きとることも
 ほとんどできない状態から勉強していったそうです。

 二人ともクリクリッとした可愛らしくて力強い目をしている素敵な女性です。
 楊さんとは年齢が近く、出身大学も同じで、また李さんは専攻科目が同じなので、
 何だかすごく嬉しく感じ、勝手に親近感を抱き、尊敬する希望の星とさせてもらっています。

 李さんの著書『千年の祈り』☆の訳者あとがきで、李さんが英語で小説を書く理由として
 以下のことが書かれていました。

 「中国語で書くときは自己検閲して」しまい「書けなかった」、
 だから英語という「新たに使える言語が見つかり、幸運だと思う」

・ところで、先月から英会話の特訓を始めたのですが、
 単語の意味を調べるとき、なるべくその単語の全体像を把握するようにしています。
 そうすると、その単語が、今まで抱いていたのとは全く異なるイメージを持っていることに、
 しばしば気付かされます。

 例えば“nerve”という単語は、ランダムハウスによると、
 神経という意味の他に、勇気・度胸や、活気・元気や、大胆さや、神経質・心配・臆病や、
 触れられたくない点・痛い所・気に障る事柄といった意味を持っているそうです。
 つまり“nerve”は、日本語のいわゆる「神経」という意味だけなく、
 「気」の意味も内包しているんですね。

 日本語では「神経」は科学的なニュアンスを、「気」は非科学的なニュアンスを有しているけれど、
 英語では根本的に同一のものとして捉えられているのかなぁ、とか、
 勇気・度胸と、心配・臆病という正反対の意味の事柄も、
 英語では根本は同じ“nerve”から発しているんだなぁ。

 でも、だからといって、一つの単語が正反対の意味を表すことができるなんて変なの、とか、
 “nerve”にはトラウマに近い意味もあるんだなぁ、とか考えていると、
 とってもおもしろいです。

 母国語以外の言語を勉強すると、新たな言語を獲得できるだけでなく、
 今まで持っていた枠組みとは異なる、新たな思考ツールが獲得できるような気がするのです。

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